日時:2008年10月5日(日) PM1時30分〜
会場:ハートピア春江 小ホール
主催:秀林館バイオリン教室
 機会があって英文と格闘していました。和訳するたびに感じるのは、英語の一意的な性格と論理の明晰さです。逆に日本語は表現が多彩で、なんと細やかなことでしょう。例えば「I love you」の日本語訳は「愛してるぜっ」「アンタ、好きよ」「お慕い申し上げます」など、いくらでも思いつきます。

 日本語の表現は、文を読んだだけで男女の別・上下関係などが明瞭で、その場の情景までが目に浮かぶようです。そのためか、英語と異なり国語の入試ではアクセントやイントネーションの出題は皆無。わざわざ言挙げしたり、抑揚。パフォーマンス。表情に頼ったりする必要がない表現力があるということでしょう。「日本人は何を考えているか分からず、表情に乏しい」という、国際的な舞台での批判の一因もここにあるようです。

 ここで、外国人の視点から日本語を見てみましょう。16世紀にヨーロッパから日本にやって来たイエズス会の宣教師たちに次のような記述があります。「(日本語は)知られている諸言語の中で最も優秀、優美、豊富なものである。(略)我等のラテン語よりも豊富で、思想をよく表現する。(略)相手の人物や事物の階級に応じて高尚、低俗、軽蔑(謙譲の意か。北川注)の言葉を使い分けなければならない」(A.ヴァリニアーノ)とか、「我々が身振り手真似で示すものを、日本人は多く複合語と副詞(助動詞の誤りか。北川注)とで示す」(I.ロドリゲス)と。

 表現力が潤沢ならば、身振りや表情に頼る必要もないはずです。

 音楽の演奏のときに、必要以上のルバートや身振り・感情表現で厚化粧した演奏家を見るときがあります。これを「心情と個性の発露だ」と擁護する人もいます。はたしてそうでしょうか。奏者の「個性」やパフォーマンスの陰に、偉大な作曲者の顔が隠れてしまっていませんか?確かな表現力があればパフォーマンスまで動員する必要がないはずです。

ところで、グレン・グールドというピアニストは一切の演奏会を拒否しました。聴衆に迎合して喝采を得ることに欺瞞を感じたというのがその理由の一つです。その後、録音という、まさに音だけで勝負をしたのは有名で、彼の態度は今も強い火影を残しています。

 グールドの例は極端かもしれませんが、ともすれば道を外れてしまいがちな私たちに大きな問題を突きつけているようです。音楽のジャンルに限らず、一切の虚飾を取り除いて表現の本質に迫りたいと考えるのは私だけでしょうか。いかなる分野であろうと、表現という作法には義務が伴うものですから。

秀林館代表 北川 昇
-プログラム-

・映画タイタニックより「主よ、みもとに近づかん」 ト長調 / L.メイゾン(北川昇編曲)

浸水して傾き始めた船の中で、乗客を励ますために演奏された賛美歌。死に直面した人々の鎮魂歌として静かに流れる。

・無伴奏フルートのためのプレリュード ニ短調 op.49 / 北川 昇

チェロやバイオリンの無伴奏は重音が可能。しかし、フルートは単旋律のためかなり制約がある。バッハの無伴奏用フルートと同じく、属音から開始。関係調への移行も確認していただきたい。平成6年作曲。

・管弦楽組曲第3番 BWV1068 〜アリアニ長調 / J.S.バッハ(北川昇編曲)

有名な「G線上のアリア」の限局。情緒的な極めて美しい旋律。第2バイオリンの対旋律の美しい動きにも注目。

・2つのバイオリンのためのソナタニ長調 〜第1楽章 / G.タルティーニ

タルティーニはバイオリン奏者でもあって、楽器の特性を知り尽くした上での作曲。優雅な旋律の絡み合いが特徴的。

・ゴールドベルク変奏曲 BWV988 〜第30変奏 ト長調 / J.S.バッハ(北川昇編曲)

この曲は2段の鍵盤要のチェンバロのためにかかれたもので、現在のピアノの演奏は難曲。アリアに続くカノンとフーガの変奏がある中で、最終変奏に突如2つの民謡を絡ませた最終変奏(No.30)が出現。しかも和声進行は今までの変奏を踏襲していて、バッハの力量を感じさせる名曲。今回は2声をバイオリンに振り分けてトリオに編曲。

・2つのバイオリンのための協奏曲 (作品3の6) イ短調より第1楽章 / A.ビバルディ

『調和の幻想』作品3の中にある曲で、この曲集の中でも最も有名。チュッティ(総奏)と独奏の交互に現れる自由さが見事。第1バイオリンと第2バイオリンの絡み合いも聴きどころ。

・教会カンタータ第140番 BWV645 「目を覚ませと呼ぶ声あり」 / J.S.バッハ

カンタータ代140番の第4曲。このコラールではユニ損のバイオリンの合奏と通奏低音が、花嫁の行列の近づく様子を描き、フルート(原曲ではテノール)のコラール旋律が物見たちの声を表現。

他。

◆グレード表彰式
◆記念撮影

※プライバシーの都合上、演奏者の氏名は省いております。

○ピアノ伴奏: 吉田 真里子 先生
○フルート演奏: 代田 純子 先生
2006 / 2007 / 2008 / 2009 / 2010 / 2011

-福井市 秀林館バイオリン教室-